『三国志のことわざ「青梅、酒を煮て、英雄を論ず」』
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『三国志のことわざ』

 今回の諺(ことわざ)は、『青梅、酒を煮て、英雄を論ず』です。

『ことわざの意味』

意味は、「酒を酌み交わしながら天下の英雄が誰なのかを論じる」ということです。

類義語に「英雄は英雄を知る」があります。

『ことわざ(故事)が生まれたエピソード』

正確には「諺」というよりも「故事」です。

〈由来について〉

建安元年(196年)、劉備が曹操の元に居候(客分)していたときのことです。

曹操が、劉備を梅園の宴に招き、梅の実を肴にして、論じたのには理由がありました。
それは劉備の本心を聞き出すこと、そして劉備という人物がどの程度の見識を持っているものなのかを推し量るためです。
つまり、この時点で曹操は、劉備という人物を認めていた、または警戒していたことになります。

曹操は劉備にこんな質問を投げかけます。

「この乱世で英雄と呼べる人物は誰だと思うか?」

すると劉備は、袁紹、袁術などの名をあげます。
もちろん本心は隠してです。

曹操は劉備が上げた人物たちをいちいち論破していきます。
そして最後にこう切り出します。

「この世に英雄は君と余だけだ」

それを聞いた劉備は、曹操に隠していた内心を見透かされたかと思い驚愕してしまいます。
このとき「三国志演義」では、持っていた箸を落としてしまい、偶然鳴り響いた雷に驚いたふりをして誤魔化す話となっています。
つまり、劉備は、本当は目の前にいる曹操を倒して漢王朝の再興を願っていたのですが、自分を小さく見せて英雄の志を隠すために、雷に驚く小心者を装ったのです。

その様子を見た曹操は劉備を「雷怯子」(雷におびえる臆病者)と評し、持っていた警戒心を緩める、というエピソードです。

このエピソードで重要なことは、「曹操がまだ勢力を持たない劉備を一早く最大のライバルに成り得ると見抜いていた」ことと、「劉備が曹操に本心を隠したこと」です。
なぜ、その二つが重要なのかというと、以下で解説します。

〈解説〉

天下統一の大志を抱き、中原に勢力を拡大しつつあった曹操は自身が時代の英雄であることを自覚していました。
しかし、乱世を戦い抜き、天下を取るためには必要なことがあります。

それは「誰が敵なのかを見抜く」ことです。
そして、一早く最大のライバルを倒すこと

最大のライバルに成りうる者をできるだけ早期に倒してしまうこと。
これはビジネス戦争においても同じです。
または、最大のライバルとなる前に味方に付けてしまうこと。(自勢力への吸収合併)
そのためには、「誰が最大のライバル」なのか見抜くことが重要なのです。

〈意味の補足〉

この「青梅、酒を煮て、英雄を論ず」は、陳寿の正史『三国志』ではなく、三国志に注釈を加えた裴松之(はいしょうし)『華陽国志』に出てくる資料が元になっています。
『華陽国志』では、『三国志演義』とは違う記述となっています。
『華陽国志』では、劉備が雷に怯えて箸と匙を落としたという単純な内容だけでなく、儒教に関する言葉を言ってします。
それは、

「聖人は、迅雷風烈は必ず変ずと言いましたが良言であります。一震の威がこれほどの物であろうとは」

ここで言う「変ず」とは、態度を改めるという意味になります。

儒教の祖孔子が残した言葉に、「斉衰の者を見ては、狎(な)れたりと雖(いえど)も必ず変ず」があります。
孔子は、公私のケジメがしっかりした人物であり、それが親しい友人であっても冠婚葬祭の行事のときには、慣れあいをせず、ピシッと敬意を払いました。
同じ理由で、孔子は雷鳴や暴風雨のような自然災害も、何らかの天の意志であると考え、わざわざ正装に着替えて姿勢を正し敬意を払ったのです。

劉備は、雷鳴にビックリして思わず箸と匙を落とした照れ隠しで「孔子が敬意を払うだけのことはあり、さすがは雷の威力はすごいですね」とおどけてみせたのです。
つまり、孔子の故事を引き合いに出し、自らを矮小化して、自分は英雄のような大それたことができる人間ではないと偽ったのです。

〈「青梅」について〉

諺の中に出てくる「煮梅」というのは日本人にはあまり馴染みがないだろう。
日本人にとって「梅」とは、第一に「梅干し」であり、次に「梅酒」あたりを思う浮かべるものだろう。

だが、中国人(当時)にとって「梅」は貴重な栄養食品でもあり、病気の予防薬品となる大切なものだった。
青梅にはさまざまな天然の良質な有機酸と鉱物質が含まれ、血液の浄化整腸作用血中脂肪の減少作用疲労回復効果美容効果などがあり、身体の免疫強化など独特な栄養保健機能がある。
だが、新鮮な梅(青梅)はあまりにも酸っぱいので加工しなくては食べられない
そこで煮て「煮梅」にするのだ。

『ことわざから学ぶ教訓』

「英雄は本当の敵を見抜くもの」

「隠れた英雄を見出す者こそ英雄」

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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