『曹操は親孝行息子』
今回は、曹操と劉備の初対決の様子をお話します。
【曹操の親孝行が仇になる】
曹操は、優れた人材と強大な兵力を得て、えん州の広大な所領を支配していました。
そこで曹操は、離れて暮らす父親たち親族を呼び寄せて親孝行をしようと思い立ちます。
(曹操が親孝行なんて、似合わないような気もしますが・・・)
曹操の願いに応えた父曹嵩は、一家老幼を引き連れて、曹操のもとへ向かいました。
途中、徐州という地を通るのですが、そこで事件が起きます。
徐州の太守(日本でいうと江戸時代の藩主のような立場)陶謙が曹操の父親や親族が通ることを聞きつけて、自ら出向いて招き入れ、盛大な宴席を二日間も設けて歓迎します。
そして、曹嵩一行を送り出すために部下を護衛に付けますが、その部下は曹嵩に贈った食料や財宝に眼が眩んで、あろうことか曹嵩たちを殺してしまったのです。
(まっこと、恐ろしい時代ですな~)
それを知った曹操は怒り心頭です。
(そりゃそうだ!)
徐州に攻め込んで父の恨みを晴らしてやると怒髪天を衝く勢いです。
誰だって自分の親が無残に殺されたら復讐したくなりますよね。
現代は復讐が法律で禁止されていますが、日本の江戸時代くらいまでは親の仇に復讐することは許されていたようです。曹操も人の子だったということですね。
一方、予測していなかった事態に陶謙は慌てました。
そもそも、勢いを得ている曹操に恩を売っておこうとしただけなのに、逆に恨みを買うとは思っていなかったというのが正直なところでしょうか。
ただ、部下の管理、人材を見る目が甘かったのでしょう。
陶謙はある曹操が言った言葉を思い出してぞっとしたのです。
それは「我ひとに背くとも、人われに背かせし」という言葉です。
【曹操、徐州で大虐殺】
でも、誰の人生でも予想もしないとこが起きますよね。
どこかの元総理がいったように「まさか!」という坂が人生にはあるのです。
慌てた陶謙は、援軍を求めるため各地に使者を送ります。
しかし、怒りが爆発した曹操の大軍を相手に、徐州を救おうとする義理も大儀も見いだせない連中は助けになんか行きません。(せこい)
ただ、一人、劉備玄徳を除いては。
193年、曹操は十万の大軍を引き連れて徐州に攻め上ります。
しかし、さすがの張飛、関羽も曹操の大軍を相手にするのは負け戦必定、陶謙に義理立てすることなどないと主張します。
なのに、劉備は加勢すると約束した以上、行かねば信義に劣ると言い放ちます。
それに劉備は曹操軍の残酷さを黙って見逃せなかったのです。
曹操軍は徐州に攻め込んで大虐殺をしたのです。
犬や鶏まで殺され、死体の山で川の流れさえ止まるほどであったと伝えられています。
(きっと、先の大戦での東京大空襲のときのような悲惨な光景だったのでしょう)
【劉備の信義】
劉備とすれば、いくら父親の仇を打とうとしているとはいえ、何の罪もない領民が殺されて苦しむのを見過ごせなかったのです。
(ここです! 劉備の徳。劉備の優しさ。劉備の仁義の心。ここが劉備の人気の理由であり、また魅力なのです)
劉備という人物の魅力は、他の英雄たちと圧倒的に違うところがあります。
それは、仁義を重んじるところであり、天下大乱の世において何よりも大事なのは人心の掌握が急務であると考えるところ。
不仁には仁で、不義には義で対抗する。
そういった理想の人物像のような人なのです。
この時の劉備の手勢は約二千しかなかったようです。
しかも、公孫瓚から借りている兵が大半の状態です。
劉備はこう考えました。
陶謙は曹操の父親を殺してしまった(部下が)けれども、いままで仁をもって徐州を統治してきた。
なのに、曹操は個人的な恨みで大軍を動かし、領民を苦しめ、その領地を奪おうとしている。
見過ごせないと。
(カッコいい~! じゃ、あ~りませんかー! これが男気ですよ! これだから劉備は人気なんですよ)
【劉備の危機を救った呂布】
曹操と劉備。
三国志の二人の英雄は、対照的なタイプの人物なのです。
徐州の城に攻め寄せた曹操軍に対して、劉備は張飛を先鋒にして大軍を突破して城内に入ります。
しかし、多勢に無勢、戦局は如何ともしようがありません。
(この戦いに趙雲が加わったという説と、居なかったという説があります)
いわゆる絶体絶命の危機です。
(オーマイゴット!)
え~劉備がここでやられてしまうのか~と思ったら。
天の助けとも言える事態が起きます。
王允が死んで各地をさまよっていた豪傑呂布が曹操の留守の間に、えん州を奪い取るべく襲い掛かってきたのです。
いくつかの城は残ったものの、その大半が呂布の手に落ちてしまいました。
ここで曹操は選択に迫られます。
引き続き徐州を攻めるか、引き上げてえん州にいる呂布と戦い領地を奪還するのか。
結局、劉備が和議を曹操に申し入れて、荀彧の勧めで曹操は和議に応じることで、いったんえん州に戻り、呂布を駆逐するのです。
そこには参謀荀彧のしたたかな知恵が潜んでいました。
和議を結ぶことで劉備に恩を売っておき、自らは兵を引きえん州に戻って呂布と戦う名目が立つのです。
(やっぱり参謀の力って必要ですよね。)
こうして曹操対劉備の初対決は、小競り合いで終りました。
「傲慢で強気で実力があり、ついていけば行けば出世させてくれそうな上司」と、「ちょっと弱いけど情に厚く面倒見がよく絶対に人を見捨てない上司」。
あなたならどちらの上司に仕えたいですか?
「自分が他人を裏切るのは良くても、他人が自分を裏切るのを許さない人」と、「約束を守り、他人のことを親身になって考える親切な人」。
あなたならどちらを友としますか?
【今回の教訓】
「他人を裏切る人間は、歴史の中で汚名を被る」
「信義を守り通した人間は、後の世でも好感を持って受け入れられる」
「自己中心で自分勝手なリーダーはいつか報いを受ける」
『群雄割拠編10 ~徳の香り~』に続く。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。