『群雄割拠編12 ~部下を叱る~』
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『部下を叱る』

今回は、張飛の失態と劉備の対処についての話をします。

二虎競食の計】

曹操は天子を擁し天下に号令できる権力を手にしましたが、内心恐れる存在がありました。
それは徐州にいる劉備です。もちろん徐州を手に入れたいとも思っていました。
しかし、徐州には豪傑呂布がいます。
その呂布が劉備と手を組んで立ち向かってくるとなると、やっかいなことになります。

そこで参謀の荀彧が策を授けるのです。

二虎競食の計

策はこうです。
劉備に対して、正式に徐州の太守に任じるからその代わりに呂布を打てと密書を送るのです。
つまり、劉備と呂布を戦わせて、どちらかが倒されたり、共倒れになったりすることを期待したのです。

ところが劉備は、自分を頼って徐州に来た呂布を殺したら義理が立たなくなると考えて呂布討伐には動かなかったのです。
そこは劉備も曹操の企みを読んでいたかもしれません。
劉備と呂布が共にあれば、曹操を脅かすことができるということに気が付いたのです。

駆虎吞狼の計】

そこで、参謀荀彧は新たな策を考えます。

「駆虎吞狼の計」

今度は曹操の密書ではなく、正式に天子の詔書(皇帝からの命令書)として劉備に南陽の袁術を打てと勅旨を送ったのです。
劉備はこれも曹操の策略かもしれないと疑いましたが、天子からの詔です。漢王室の末裔の劉備が無視することは出来ません。

つまり、曹操は劉備の心理的弱点を突いたのです。
(うまい!)

曹操はさらに袁術に使者を送り、劉備が攻めてくることを知らせるのです。
(汚たね~!)

これが曹操の性格です。
劉備ならこうした作戦は取らなかったはず。

【劉備の誤算】

とにかく劉備は南陽の袁術を打つために出陣しますが、大切な拠点である徐州を奪われては大変です。すぐ近くに呂布がいるのですから。
劉備はこのとき関羽を連れて行き、張飛に留守を任せることにするのですが、これが大きな災いを起こします。

劉備は張飛の酒癖の悪さを知っていたため、張飛に留守中は酒を断つことを約束させるのです。そのほかにも腹を立てぬこと。兵士に乱暴しないこと。
この三つを約束させるのです。
(そこまでしないと劉備は安心しなかったのでしょう)
張飛は劉備の出した三つの軍令に従うと約束しましたが、内心は尊敬する兄者の言うことなので、しぶしぶ従うことしかないと思ったのでしょう。

さあ、どうなるでしょう。

徐州の劉備軍と袁術配下の紀霊率いる南陽軍が、わい陰の地で対決します。
関羽の奮戦で兵力に勝る南陽軍を撃破します。

しかし、そのころ徐州の張飛は、禁じられていた酒を一口だけと思って飲んでしまいます。
しかも、飲酒を諫めた曹豹という人物に暴行を加えてしまうのです。
恨み骨髄に徹した曹豹は、小沛に駐屯している呂布に密書を送り、劉備が留守の今、徐州を奪う好機だと知らせてしまうのです。
(これだから人の恨みをかってはいけないのです)

呂布に攻められた張飛は酔っぱらっていたため、呂布にまともに対抗できず撤退します。
ここで徐州は呂布の手に落ちました。
(オーマイ、ガッ!)

徐州を取られた張飛は陣を張る劉備軍に合流します。
さあーここで劉備はどうするのか? です。

【荀彧の誤算】

張飛は死んで詫びを入れると言い放ちますが、劉備は「われら三兄弟は手足の如し」と言って、張飛を許すのです。

さあー、ここに荀彧の策が成就したと思われましたが、呂布が驚くような行動に出ます。
それは、劉備に徐州に戻れというのです。 ??

劉備は、流浪するよりもマシと考えて徐州に戻りますが、呂布との立場は入れ替わってしまいました。

呂布は徐州に戻ってきた劉備を迎え入れて、太守の印綬を返却しようとするのですが、あろうことか劉備は、呂布に徐州を治めてもらいたいなどというのです。
まったく人が良すぎます。呂布は腹黒く太守の地位を返すつもりなどないのは銘名伯楽ですが、そこは知れっとして、ああそうですか。ご苦労様ですと、印綬を受け取って、元のように呂布に小沛の城に帰ってもらえば良かったのです。そうしたら、曹操は地団駄踏んで悔しがったでしょうね。

しかし、呂布はこのときの劉備の姿を見て敬服しました。
劉備の根幹をなしている徐州を奪われながらも、その屈辱に耐え、恨み事も言わなかった。
恥を忍び、怒りを抑えて、水のように穏やかに運命を受け入れる懐の広さ。
そうした劉備に驚いたようです。
そこが、劉備の長所でもあります。
(実に長所と短所というのは、ときに入れ替わりコロコロと姿を変えます)

まさか、呂布が劉備を受け入れることも、劉備が徐州に戻ってくることも、荀彧は読み切れませんでした。
さすがの荀彧も劉備の無欲な性格を読み切れなかったようです。
(この辺が諸葛孔明や司馬仲達よりもやや劣るかな~と思われるところでしょうか)

【叱るべきか?許すべきか?】

ここで問題なのは、大切な留守役を張飛に任せたことだと思います。
劉備としては、張飛を試してみたのでしょう。
そして、張飛が試しを乗り越えることを望んだのでしょう。

ここにあるのは結局、人選の問題です。
誰にその仕事を任せるのか、ということです。

やはりどうみても張飛には性格上の問題があります。
張飛は、劉備がそばにいれば絶対的に言うことを聞きますが、劉備が離れれば勝手なことをする性格です。
この張飛の性格は劉備が蜀漢を建国するころにも大問題を起こします。
(それは後の話で・・・)

やはり、兄として上司として劉備は、約束を破り大きなミスをした張飛を叱るべきでした。
二度と同じような失態をしないように部下である張飛を教育すべきでした。
しかし、厚く結ばれた義兄弟がゆえに許してしまったのです。
本来、義理堅く仁義に厚い性格は長所なのですが、このことは将来への禍根を残すことになったと言えます。

意外に人は欠点よりも長所がゆえに失敗したり、滅んだりします。

義兄弟がゆえに失敗を許すというのは、当事者としたらありがたいことですが、第三者的立場から見れば「ひいき」としか映らないでしょう。

軍規というのは信賞必罰が基本的に鉄則です。

この時劉備が張飛のわがままな性格をきつく叱り矯正すべく教育していったなら、後の悲劇は避けられたかもしれません。
三兄弟の結束は三国志中でも一二を争うほど強い絆ですが、強すぎる絆ゆえに過ちが起こることがあるのです。

失敗(ミス)をした部下の対処をどうするのか、という問題を間違えてはならないのです。
基本的には、「罪を憎んで人を憎まず」が大切ですが、組織を傾けたり、顧客に損失を与えたり、理念に背いたりする人物を叱責も責任も取らせないでそのまま放置してはならないのです。
ただし、その人物が反省し生まれ変わったら、またチャンスを与えることも大切なことです。

最近の若者は上司に叱られるとすぐにパワハラなどと口にすることも多いと聞きますが、言わねばならぬことはたとえ悪者に思われようとも言ってやらねばなりません。
それが、上司の役割です。

部下を叱り、教育することが出来なくて、なんの上司でしょうか?
優しすぎるがゆえに張飛を叱れなかった劉備には、後々悲劇が待っているのです。

「叱る」ことができなければ、基本的に上司とは呼べません。
「叱ること」を恐れるようでは、組織を率いるリーダーではありません。
大切なことは「許すために叱る」ということです。

【今回の教訓】

「交渉事には、相手の心理的弱点をつけ」

「叱るべきときに叱らないと、後に禍を招く」

「部下を叱ってこそ、上司と呼べる」

『群雄割拠編13 ~無二の親友~』

最後までお読みいただき、ありごとうございました。

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