『群雄割拠編10 ~徳の香り~』
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『徳の香り』

 今回は、人を惹きつける徳の香りの話をします。

【劉備、徐州を得る】

曹操に駆逐された呂布は軍師をしていた陳宮の意見に従って徐州に避難します。
しかし、徐州を収めていた太守陶謙は、劉備に徐州の太守になってくれと懇願します。
劉備は、それを断ります。
(謙虚といえば謙虚だけど、謙虚すぎないかな~!)

弟分の関羽、張飛は「兄貴はひとが良すぎる」と、あきれます。
(まぁ~その気持ちはわかります。)
遠慮深いというか、信義に厚いというか、そうとう人が良すぎますね。
でも、そこが劉備の魅力です。

陶謙は、結果的に曹操の父親を殺したことになってしまい、曹操の恨みをかったので、いずれ曹操が徐州に攻め込んでくるのは明白。
しかし、自分には曹操に対抗するだけの力がない。
だから、劉備に徐州を任せるしかない、と思ったようです。

このとき陶謙には息子もいたのに、劉備の人格に惚れ込んで徐州の太守の地位を譲ろうとしたのです。
まわりの官僚たちも劉備が太守になることを願ったといいます。

【徳の香り】

徳の香り

徳ある者には徳の香りがし、その徳の香りはひとの心の奥深くに届くのです。
劉備の徳が陶謙の心に届いたのです。
陶謙は仁をもって政治をしていた人物なので、劉備の放っていた徳の香りを感じ取ったのでしょう。
劉備は、陶謙の度重なる懇願についに折れ、徐州の太守になることを約束します。
しかし陶謙は、太守の地位を譲って安心したのか、曹操とのいさかいで心労したのか、病を得て亡くなってしまうのです。

劉備の立場からすれば、自分の領地を喉から手が出るほど欲しかったことでしょう。
曹操は大軍とえん州をもっていますし、孫堅、孫策は代々江東の地を地盤としています。
ところが、劉備は漢室の末裔ということと一騎当千の関羽、張飛の弟分がいるだけで、地位も領地もほとんど無きに等しかったのです。
これではいくら天下統一を志してもその道のりは遥かかなたです。

宿敵曹操には及ばないものの徐州の太守になることで、劉備はようやく天下取りへの足掛かりを得たのです。

劉備の心境としては、徐州の土地と太守の地位が手に入れば、自分の漢王室再興の志に近づくとわかっていても、他人の領地を火事場泥棒のように都合よく手に入れることに、心理的抵抗があったのでしょう。

劉備と曹操とはまったく違ったベクトルで天下取りの道を歩んでいます。
この辺が、実に面白いところです。

曹操は「ひと我に背くとも、われ人に背かせじ」と言い放ちましたが、劉備は「われ人に背かれども、われ人に背かじ」と考えます。
(まるで真逆の性格)
これがフィクションの映画だとしたら、実に見事なキャラクター設定だと言えますが、これが歴史上の史実なのですから、なんとも面白いですよね!

劉備は、さらに驚く判断をします。
徐州にやってきた呂布は、負け戦をして逃げてきたはずなのに威張り散らします。
状況的に徐州の劉備を頼るしかないというのに。
劉備は、その呂布に小沛という土地を与えます。

劉備は深く物事を考えていました。
いま、自分が徐州の太守になれたのも、徐州に攻め込んだ曹操の背後を呂布がついたからこそ徐州は命拾いしたのだ。あのとき呂布が曹操と戦っていなかったら徐州は曹操の手に落ち、自分もまた敗戦の将として他の土地に流離うしかなかったのだと。
その恩義があるのだと。
(だとしても、そこまで恩義を深く感じて、恩を返そうとする人が世の中にいるでしょうか? この劉備の無欲さが彼の徳を生んでいるのです)

劉備は漢王室の再興を旗印に掲げて挙兵したのだから、その足掛かりになる領地や兵も欲しいはず。
だけど、不正な手段や邪な方法によって、自分に都合の良いものを手に入れるのは、己が己の心を許せない。
劉備玄徳という人物は、そうした潔癖で誠実な性格なのです。
(だから、わたしは玄徳が好きです)

関羽、張飛、そして趙雲などはそうした劉備の放つ徳の香りに吸い寄せられた蝶か蜂といえます。
その人が持っている性格や人格の匂いは、大な小なり他人に届くものだと思います。
ましてや高潔な人格や徳であれば、その香りがお香のように人の心に響きます。

(ミントの花言葉=「徳のある人」)

あなたの持っている性格の香りはどんな香りでしょうか?
芳醇な人を酔わせる香りなのか?
どぎつい鼻が曲がってしまうほどの臭いなのか?
人を惹きつけて止まない香りなのか?
人を不愉快な気持ち、不快な気持ちにさせる匂いなのか?

誰もがその人特有の匂い、香りを持っています。
その香りは香しいものであってほしいですよね!

【今回の教訓】

「人の性格はおのずと滲み出て、他人に伝わるもの」

『群雄割拠編11 ~三国志のターニングポイント~』に続く。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。

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