『荊州争奪編14 ~心のイノベーション~』
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『心のイノベーション』 

小さな勢力が発展するときの注意点。
今回は劉備の呉脱出の際に起きた内部騒動の問題を取り上げてみます。

【劉備、呉から脱出】

  徐南から荊州に戻ろうとする劉備に周瑜が差し向けた丁奉と徐盛の追手が追いつきます。
それを孫夫人が二人の武将たちを一喝します。
歴戦の武将である丁奉と徐盛も孫夫人の激しい怒りに戸惑います。
なにしろ孫夫人は主君孫権の妹なのですから、臣下の身では抗えません。

 ひとまず虎口を脱した劉備でしたが、周瑜が率いる兵が近づいてきます。
そこで趙雲は孔明から授かった三つ目の袋(策)を開けます
そこには劉備の脱出方法が記されていました。

 劉備は急ぎ長江に向かいます。
逃げるときは南徐の外れの漁村にくるようにと、孔明から指示があったからです。
そこへ周瑜が追い付いて来ました。
しかし、間一髪のところで黄忠が率いる部隊が現われ矢を射かけます。
それは孔明が差し向けた劉備救援部隊でした。
さすがの周瑜もこれでは手が出せなくなりました。
こうして劉備は、危機を脱して黄忠の船に乗り込み荊州に逃れるのです。

【劉備勢力(陣営)の課題点とは?】

 荊州に戻った劉備でしたが、荊州では問題が起きていました。
関羽と張飛がいつまでたっても呉から戻らない劉備を心配して、軍師孔明が劉備のいない隙に荊州を乗っ取るのではないかと疑っていたのです。
同時に劉備救出のため呉に出兵しようと連日孔明宅にやって来て怒鳴り散らしていたのです。

 駄々っ子に手を焼くように孔明は関羽と張飛に手を焼いていました。
なによりも、劉備に対する忠誠心を疑っていることに孔明も心を痛めていたのです。
孔明がこのとき何を考えていたかというと、劉備陣営が味方同士で争うことで分裂したり戦力低下を招いたりすることを避けたかったのです。

 事情を知った劉備は、関羽、張飛との再会の喜びもどこへやったと豹変して叱りつけます。
劉備が戻ったことで機嫌を直した関羽と張飛でしたが、兵舎に入ると孔明の姿がどこにもありません。
孔明は腹心の馬謖のみを連れて船で出ていくことにしたのです。
そこへ関羽、張飛、劉備が追っかけてきます。
平身低頭関羽と張飛は孔明に謝ります。
しかし、簡単には許しません。

「お詫びなど結構。すでに去ると決めたのです」

と冷たい言葉を投げつけます。
軍師孔明がいなくなっては張飛、関羽が劉備の顔を潰してしまいますから、二人は思い切った行動に出ます。
それは二人で孔明を担いで邸宅へ無理やり連れていったのです。

 翌日、関羽と張飛は、孔明宅の玄関の前で衛兵のように突っ立ったまま孔明の許しを請うていました。
そこへ劉備が現われて二人の取り成しをします。
そこで孔明は以前からの心配の種を吐露するのです。

「問題は張飛ではなく関羽のことなのです。張飛のような粗暴な振る舞いはありませんが、傲慢です。広い天下において従うは劉備殿ひとりのみ。他の者は歯牙にもかけないありさまです。」

と、関羽の性格における問題点をさらけ出すのです。

【組織拡大に必須の「認識(心)のイノベーション」】

 このまま劉備陣営が勢力(領地と兵力)を拡大していけば、関羽クラスの武将は単独で一地方を任せることになります。
そうなったときに関羽の傲慢さが命取りとなることを孔明は心配していたのです。
この問題は三国志だけの問題ではありません。
ここにあるのは小さな勢力(組織)がその勢力(組織)を拡大していくときに必ず出てくる問題なのです。

 例えていえば、数人の仲間で始めたベンチャー企業が急激に発展して、創業当時の仲間以外の途中入社やヘッドハンティングした人材が増えて組織やシステムなどをイノベーションしなければならない時期が訪れます。
そのときに、単にシステムや商売の方法、組織だけをイノベーションすればいいというわけはなくもう一つ大切なイノベーションがあるのです。
それは心のイノベーションです。
認識のイノベーションと言ってもいいでしょう。

 システムや組織、商売の方法を変革することは容易ですが、人の心、考えを変革するということはとても難しいことなのです。
しかし、その認識のイノベーションをしないとやがて壁にぶつかり発展は止まってしまいます。
発展が止まるだけならまだいいですが、下手をするとライバルに負けて衰退してしまうかもしれません。
それほど心のイノベーションは大切なのです。

 つまり、劉備陣営でいうと、関羽と張飛は劉備ベンチャー企業の創業の仲間です。
しかし、ヘッドハンティングした孔明や途中入社した黄忠、魏延、馬良、馬謖などの人材が増えて勢力図に変化が起きていたのです。

 関羽と張飛は、ベンチャー企業から中堅企業となりつつある劉備会社の中でいつまでも起業したときの感覚のままでいたのです。
関羽と張飛の二人はそうした認識のイノベーションが出来ていなかったのです。
関羽と張飛というのは戦では負け知らずの豪傑ですが、それ以外の政治や内政、外交などではまったく力量を発揮しません。
主君劉備の義兄弟という強い絆がゆえに、それが逆に弊害となってしまったのです。

勢力が拡大するというのは(企業が大きくなるということは)、別の能力を持った新たな人材が必要となるということなのです。
組織が発展するということは、人材の役割が変わる(入れ替わりを含む)ということであり、立ち位置が変わるということでもあるのです。

 関羽と張飛は創業の仲間ゆえにその問題にぶち当たったのです。
別な表現をするなら、劉備という主君だけに従ってきたのが関羽と張飛なのです。
ですから、劉備という存在がなくなると関羽と張飛はコントロール不能に陥る可能性が出てくるのです。
しかし、関羽と張飛以外の途中入社組は違います。
途中入社組の人たちは劉備という男の魅力に惹かれながらも、劉備の理想を理解し、劉備の理想実現のために協力する仲間にも従うことが出来る考えを持っているのです。

 感情を持つ人間である以上こうしたことは難しい問題ですが、現代においてもあちらこちらで起こっている現象であると思います。
現代のビジネスの現場においても注意しなければならないのは、トップや経営陣が常に意識改革を行っていくことなのです。

それは発展のスピードに合わせて意識変革をするべきなのです。

【今回の教訓】

「システムや組織体制の変革をするなら、人の心や考えを変革することから始める」

「組織の発展のためには、トップや経営陣が常に意識変革を行っていかねばならない」

最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

『荊州争奪編15 ~周瑜死す~』

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